車内で現代アートが鑑賞できる上越新幹線の観光列車「現美新幹線」が29日に新潟-越後湯沢間で運行を始める。北陸新幹線が脚光を浴びる中、移動手段と芸術鑑賞を組み合わせた「走る美術館」という異色の列車には、首都圏の旅行客を呼び込みたいJRの狙いがある。企画の背景を探った。
11日に開かれた現美新幹線の試乗会。6両編成の車内にはさまざまな分野の芸術家7組が手掛けた立体や映像などの作品が並び、美術館さながらの光景が広がっていた。車両の改造費は約5億円に上る。
JR東日本の新幹線を活用した観光列車は2例目。山形新幹線の新庄(山形県)-福島間で2014年から運行し、車内に足湯がある「とれいゆ」に次ぐ。近年、JR東は管内で観光列車の導入に力を入れており、現美新幹線もその一環だ。
■越後湯沢下車
「首都圏の人を新潟に連れて行きたいというのが当社の一番の目的」。今回の企画を担当したJR東戦略プロジェクトの田中壮一グループリーダー(45)は語る。どの時期に首都圏から本県に人が移動するか調べたところ、十日町市と津南町で開かれる「大地の芸術祭」が浮かんだ。
さらに、個人旅行を好み、新しい物に敏感なのは20~40代女性と分析し、ターゲットに定めた。調査の中で「カフェを車内に作ってほしい」という声があった。そこで「現代アート」「カフェ」を組み合わせるコンセプトに行き着いた。
現美新幹線は新潟-越後湯沢間の運行で、首都圏から直接乗ることができない。田中さんは「越後湯沢駅に一度下りてもらうきっかけをつくるため」と理由を説明する。越後湯沢から県内各地を巡ったり、買い物を楽しんでもらったり、波及効果を狙う。
こうした動きに湯沢町観光協会の上村信男専務理事(65)は「宿泊需要の増加などを期待している。越後湯沢で下りた観光客向けの企画を考えていきたい」と歓迎する。
■乗り継ぎ効果
終点の新潟駅がある新潟市中央区の県立万代島美術館は15年11月~16年2月、現美新幹線の外装をデザインした写真家蜷川実花さんの作品展を開催した。学芸員の桐原浩さん(50)は「アートに興味を持つ人が来県し、県内の美術館に足を運んでもらえたらうれしい」と話した。
JR東は地酒を楽しめる観光列車「越乃Shu*Kura」から現美新幹線に長岡駅で乗り継ぐツアーを販売している。今後も観光列車から観光列車へ乗り継ぐ観光プランを展開していく考えだ。現在は指定席だけの販売だが、7月以降は一部自由席とする予定だ。
JR東は入り込み目標は明らかにしないが、「新潟県はエリアが広い。現美新幹線をきっかけに足を運んでほしい」と、本県の路線全体の活性化を狙う。
現美新幹線について、鉄道会社の経営に詳しい東洋大経営学部の石井晴夫教授(交通経済学)は「北陸新幹線が開業し、存在感が薄くなった上越新幹線に注目を集めたい狙いがある。路線や顧客の対象が比較的限定的なので広がりを出せるかが課題だ」と指摘した。
<現美新幹線> 上越新幹線の車内で現代アートが鑑賞できるJR東日本の観光列車。土日、祝日を中心に新潟-越後湯沢間を1日3往復する。年間120日程度運行予定。6両編成で定員107人。1両がカフェとキッズスペースになっている。写真家の蜷川実花さんが長岡花火をモチーフにした外装、7組の芸術家が内装をデザインした。