飯田市竹佐の旧山本中学校杵原(きねはら)校舎(国登録有形文化財)前にあるシダレザクラの枝に、薄紅色の花が咲き誇っている。1949(昭和24)年から85年の統廃合まで3515人の卒業生を送り出した桜。今は、多くの観光客の目を楽しませている。
吉永小百合さん主演の映画「母(かあ)べえ」のロケ地になった木造平屋の校舎。廊下を歩くと、ふわりと木の香りを感じる。
窓から桜を望める教室は、多くの写真愛好家たちにとって絶好の撮影場所。大阪府八尾市から老人会の仲間と訪れた巽(たつみ)タカさん(78)は、教室の片隅に置かれた足踏みオルガンの前に腰掛け、童謡「春が来た」の一節を奏でた。
38年間、小学校で教員人生を送った巽さんが初めて赴任したのは、奈良県の山奥にある、今は廃校となった小学校という。当時を振り返り「1クラスに60人もの子どもがぎゅうぎゅう詰めに座って、もうやかましくて。おとなしい先生と思われないように必死で叱ったこともあったのよ」と懐かしんでいた。