長さ4・8メートルの段ボール紙を延々と鉛筆で塗り込め、削った「Drawing by drawing(部分)」(1976年)

長さ4・8メートルの段ボール紙を延々と鉛筆で塗り込め、削った「Drawing by drawing(部分)」(1976年)

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「描く」探究した絵画の軌跡 現代美術・五十嵐さん個展

福井新聞(2020年10月14日)

 色彩から離れ、「描くこと」の根源的な意味を探求する福井県越前市の現代美術作家五十嵐彰雄さん(82)。行為や思考が蓄積した画面は「時間の集積した絵画」とも称され、近年はオランダやスイスなど海外で高く評価されている。探求が始まった1960年代を起点に、約60年の軌跡を紹介する個展「アートドキュメント2020 絵画再考 積もる質/削られた層」(福井新聞社共催)が10月24日から、福井県あわら市の金津創作の森美術館で開かれる。

 2パターンの四角い色面が拮抗(きっこう)する画面の上に、ランダムに描かれたストライプ。近づくと2種類の色面が、幾重にも塗り込めた油彩の層を削ったものだと気付く。削ることによって表面に現れるのは過去。研ぎ澄まされた要素の対比が織りなす緊張感の中に、複数の時間が集積している。夏に完成したばかりの300号の新作だ。

 70年代から断続的に取り組む「削る」仕事。塗り重ねるべき絵画を削り落とすという東洋的な感性が、70年代の日本の芸術動向「もの派」が見直される東欧で、驚きをもって受け入れられている。

 福井大を卒業後、66年から福井で前衛的な芸術運動を展開した「北美文化協会」に所属。米国から入ってくる美術を追いかけた。だが70年代に入ると絵画を取り巻く状況は一変。描くという肉体的行為は否定され、知的でコンセプチュアルな表現が主流になった。自身は抽象画を追求したが、やがて行き詰まった。

 絵画を離れ、70年代半ばに背水の陣で発表したのが平面作品「Drawing by drawing」。広大な段ボール紙をひたすら鉛筆で塗りつぶした禁欲的な作品は「何を描いたかではなく、何をしたか」を問うものだった。膨大な時間と行為が集積した重厚な画面は圧倒的な存在感を放つ。

 80年代に入ると、概念的な絵画に対する反動で手で描いた絵画が復権。「最も絵画らしくない絵画」を求めて描いたという「ホワイトペインティング」は、キャンバスに白い絵の具を塗り重ね、積層する筆致の痕跡を追求した美しい作品。90年代にかけて五十嵐さんの代名詞となった。

 個展は展示室を三つに分け、60~70年代の初期油彩画や鉛筆によるドローイング、80~90年代のホワイトペインティング、2000年代以降の「削られた絵画」の計100点を紹介。アトリエ再現コーナーを設けるほか、屋外の森に巨大な鉄の立体コンセプト作品を展示する。五十嵐さんは「自己表現ではなく、宇宙の摂理や事物の真相に従って自分を客観視することに描く意味を求めてきた。見る人がどう感じるかを僕も楽しみにしている」と話している。

 12月6日まで(月曜休館)。一般600円、65歳以上300円、高校生以下無料。10月24日午後2時からは、美術評論家の加藤義夫さん、土田ヒロミ館長とのトークがある(無料)。同美術館=電話0776(73)7800。

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