若狭地方に春を告げるイサザ漁が、福井県小浜市の南川下流で本格化している。竹原(たわら)橋右岸に漁のための足場が並ぶ様子は、漁期の始まりを知らせる小浜の春の風物詩として親しまれてきた。しかし近年は漁師は減り、今季は1基のみ。網の中でぴちぴちと跳ねるイサザを眺めるベテラン漁師は「張り合いがなく寂しいね」と話している。
イサザはハゼ科で、シロウオとも呼ばれる。体長5センチほどの半透明のあめ色。水温が上がる3月から4月にかけて、南川を遡上してくる。
今季も足場を組み3月10日から漁を始めたのは、市イサザ採捕組合の勢馬次郎(せいまつぎお)さん(69)。組合には1990年ごろ、100人以上の漁師が所属し、竹原橋から下流の大手橋にかけて、約700メートルにわたってずらりと足場が並んだという。
高齢化や漁獲量の減少で組合員は年々減り、小浜の市場に卸されるのは、主に市外で水揚げされたものだという。組合員は10人以下になり、昨年足場を組み立てたのは2人。今季は3月17日現在、勢馬さんの足場しかない。
漁は直径80センチ、長さ90センチの筒状の網を竹ざおの先端に取り付け、足場から川底に沈めて仕掛ける。勢馬さんはこの日午前6時ごろ網を二つ仕掛け、同10時ごろに水揚げのため再び足場を訪れた。竹ざおはずっしりと重く、腰を据えて踏ん張りながら慎重に引き上げると、約200匹ほどのイサザが入っていた。
14日には一度に500~600匹ほどが入り、出だしは上々。躍り食いや卵とじがお勧めだという。「昔は組合員だけでなく、早朝の漁が終わった西津の漁師も川べりにきて、火を囲んでにぎやかだった」と振り返る勢馬さん。「話し相手がいないのは寂しいが、やれる限りは漁を続けたい」と笑顔を見せていた。
漁は4月20日まで。例年3月下旬から水揚げが増えるという。