福井県おおい町出身の直木賞作家、故水上勉さんは竹の奥深さに魅了され、古里や長野県北御牧村(現東御市)に工房を構え「竹紙漉(ちくしす)き」に没頭した。季節や素材によってさまざまな表情を見せる竹紙の魅力って? 水上さんが愛した世界に触れてみたくなり、竹紙漉きを体験した。
若州一滴文庫(おおい町岡田)の門をくぐると、古い木造の小屋がある。水上さんが生前、竹紙漉きに精を出した工房だ。すぐ裏手には雑木林が広がり、そこだけ時が止まったような静寂に包まれている。
現在、工房で紙を漉くのは舞鶴市の西村雅子さん(68)。水上さん同様竹に魅せられ、18年間竹紙作りに励む。今回、西村さんの指導で初めて紙漉きに挑戦した。
まずは、原料となる水に漬けた竹の幹から繊維の束を取り出す作業。幹は軟らかくなっているが"離れまい"とへばり付こうとする繊維を剥がすのは案外難しい。これが竹の持つ生命力か。
集めた繊維の束を窯で煮て流水にさらす。数日後、きねと石臼でたたいてつぶし餅状に。きねを振るうと、「コン、コン」と小気味よい音が静かな山里に響き渡る。
いよいよ漉きの作業だ。つぶした竹に水を加え、どろどろになった漉き舟に漉き枠を沈めてすくい上げる。「素手でやります」と威勢良く言ったものの、手を入れた途端に「冷たっ」。凍てつく水に一瞬で手の感覚が奪われた。慎重にすくったが、むらのある紙に。やっぱり簡単にはいかない。
今度はゴム手袋をはめてチャレンジ。漉き枠の角度やすくい上げる早さで仕上がりが変わることが分かってきた。水面から引き揚げた瞬間に、ふわっと浮き上がる竹紙を見るのが楽しくて、何度もやってみた。
結局、厚さが均一な紙は出来なかった。それでも「でこぼこやむらがあるから味がある。世界に一つだけの竹紙よ」と西村さんは慰めてくれた。自然相手だから思い通りにいかない。だからこそ面白い。西村さんも「竹紙は心を豊かにしてくれる。私ももっといい紙を漉きたいと思って続けている。まだ旅の途中です」と言っていた。
漉いた紙は数日、天日で乾かすと、竹の素朴さと風合いがある紙に仕上がる。どんな紙になっているか楽しみだ。
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体験は予約が必要。料金は500円。火曜休館。問い合わせは同文庫=電話0770(77)2445。