国の文化審議会は15日、福井県南越前町河野の中村家住宅10棟を重要文化財(建造物)に新規指定するよう下村博文文部科学相に答申した。同住宅は、江戸時代の北前船交易で隆盛を極めた船主の大規模邸宅。道を挟んで主屋(おもや)や土蔵が連なった河野地区特有の屋敷構えを残し、歴史的価値が高いと評価された。建造物の重文指定は南越前町で初めて。
主屋や新座敷、土蔵7棟、正門のほか、宅地(1255・62平方メートル)や塀が併せて指定される。
中村家は北前船交易に早くから乗り出して富を築き、同じ河野地区の右近家とともに日本5大船主に挙げられた。
越前海岸沿いにあるこれらの船主邸宅は、敷地を南北に貫く旧村道(幅約3メートル)の海側に土蔵や正門を配置した屋敷構えが特徴。山側の主屋を潮風から守る役割を果たしている。
木造一部2階建て切り妻造りの主屋は1887(明治20)年に建てられた。伝統的な和風建築を基調とし、板張りの広い台所や、本座敷、仏間など8室の座敷を備える。
新座敷は1913(大正2)年の建築。3階建てで、1、2階は数寄屋造りの座敷、3階は三つの方向に窓が設けられ海を望む開放的な望楼となっている。洋風の階段を設けるなど趣向を凝らし、主屋に比べ近代的でしゃれた造り。土蔵はそれぞれ明治20年代から明治後期にかけて建てられた。県教委によると、これらの建造物はツガやケヤキといった上質な材料をふんだんに使用している。
財団法人を立ち上げ、住宅の保存を進めている中村家当主の中村日出男さん(65)=横浜市=は取材に対し「北前船は物資の運搬だけでなく、各地の文化交流にも大きく寄与した。住宅が河野の歴史と文化を伝える『ふるさと遺産』として末永く保存されることを願う」と話した。
近く答申通り官報に告示され、県内の重文指定は163件、うち建造物は26件となる。