日本海を眺めながら鳥居をくぐると、直径6メートルほどのトンネルが現れる。福井県越前町玉川の玉川洞窟観音。両脇には計38体の像が並ぶ。
それぞれの像の前に立ち、床に目を落とすと、直径約5センチのガラス窓があり、その下には砂が見える。西国三十三所巡りになぞらえ、京都府、大阪府、奈良県、滋賀県、岐阜県など、県内外の寺に地元住民が出向いて取り寄せた砂だ。越前かたりべの会の長谷政志さん(83)=越前町梅浦=は「一つ一つの観音像の前で手を合わせれば、三十三所を巡礼した気分になれますよ」と笑う。
奥の本殿には、十一面観音像が安置されている。唐様式で泰澄大師の作とも伝わるが、漁師の網にかかっていたとの逸話も残る。「十一面観音像は高価だといううわさが広がり、船で盗みに来た人がいたが、逃げようとすると、引っ張られるように引き戻されたそうです」と長谷さん。
洞窟観音はもともと、海沿いの岩窟にあったが、1989年の岩石崩落事故後に、この場所に移された。その昔、年に一度の大祭には、漁師たちが船で訪れ、海上安全を祈願したという。数々の言い伝えは、それだけ住民に親しまれてきたという証しだ。問い合わせは越前町観光連盟=電話0778(37)1234。