グロテスクな外観にぬるぬるとした手触りのナマコは、佐渡沿岸の海底に生息する。冬から春が漁期の中心。ほぼ毎日両津漁港近くへ船を出す佐渡漁協両津支所所属の漁師市川登さん(65)は「今の時季は肉厚になる。コリコリとした歯ごたえの酢の物は、酒のつまみにいいね」と語る。
呼び名は、特徴的な体色を表す。生食用のアカナマコは岩場に多い。主に加工用のクロナマコとアオナマコは砂や泥の中に潜む。網を引く「桁(けた)網漁」では、水深20メートルまで集められる。
ただ、島の各地で水揚げされるナマコが、本県の漁獲量の7割以上を占める事実は、あまり知られていない。
10年ほど前、高級食材として扱う中国や香港への輸出の需要が高まった。安価で取引されていた値段は倍以上に跳ね上がった。島内でもナマコ漁をする漁師が増えた。「昔は見向きもしなかったんだけどなあ」。市川さんは笑う。
さかのぼれば、佐渡産のナマコは江戸時代中期から幕末まで、アワビなどと並んで「長崎俵物(たわらもの)」と呼ばれて重要視され、長崎を経て中国へ輸出される高級食材だった。
古い歴史を持つ旬の味覚を楽しんでもらおうと、佐渡市窪田の旅館「浦島」では今月、ナマコ料理の提供を始めた。定番の酢の物はもちろん、あくを出して軟らかくした身を煮物や鍋で味わえる。臭みはなく、熱を加えると、とろけるような口溶けになる。
浦島の須藤史彦社長(51)は「佐渡で採れることを知らない人が多い。見た目で敬遠するお客さんもいるが、ぜひ一度味わってみてほしい」と語った。
(おわり)
〈佐渡のナマコ〉両津湾、真野湾を中心に沿岸部に広く生息する。近年の漁獲量は100~200トンで推移する。
旅館「浦島」でのナマコを含んだコース料理は5千円から(要確認)。問い合わせは旅館「浦島」、0259(57)3751。