島秋人の自画像や往復書簡が展示された会場

島秋人の自画像や往復書簡が展示された会場

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死刑囚歌人が見つめた命 松本の窪田空穂記念館で企画展

信濃毎日新聞(2018年10月3日)

 松本市和田の窪田空穂(うつぼ)記念館で、死刑囚として獄中で短歌を詠んだ歌人島秋人(あきと)(本名・中村覚(さとる)、1934〜67年)の企画展「いのち愛(いと)しむ獄窓の歌人島秋人」が開かれている。これまで寄贈された往復書簡などを整理し、歌を指導した同市出身の歌人窪田空穂(1877〜1967年)が送った手紙など約40点を展示。短歌や人々との交流を通し、死への恐怖に向き合った秋人の心の変遷に光を当てた。

 秋人は現在の北朝鮮で生まれた。1944(昭和19)年に新潟県柏崎市に引き揚げたが、警察官だった父が終戦後に公職追放で失職し、少年時代は貧困や病気に苦しんだ。中学卒業後、職を転々としながら、非行に走った。強盗殺人などの罪を犯し、25歳で死刑判決を受けた。

 獄中から中学時代の恩師に手紙を送り、返事に添えてあった恩師の妻、吉田絢子(あやこ)さんの短歌に触発され、歌を詠むようになった。空穂が選者を務めた新聞歌壇へ投稿、入選したことから空穂との交流も始まった。

 会場には空穂や吉田さんとやりとりした手紙が数多く並ぶ。処刑の夢を見た秋人が「どうしたらおそれる死の夢から自分の心に安心を得るのでしょうか」と救いを求めた手紙の隣には、空穂が「打ち克(か)ちなさい。歌を作りなさい」と励ます手紙を展示した。

 同館学芸員の小暮洋介さん(26)は「空穂や吉田さんらとの交流で死刑を恐れる内容が多かった秋人の歌に『愛』や『微笑(ほほえみ)』などの言葉が現れ、処刑前日には『澄める心』とも詠んでいる」と話す。

 空穂らに贈った歌集、ぼろぼろになるまで使い込んだ国語辞典、空穂が見開き4ページにわたって秋人を紹介する文章を寄稿した雑誌なども展示。水を張った洗面器に映した自分の顔を描いた自画像もある。

 11月25日まで(祝日を除く月曜と10月9日休館)。10月20日は同館向かいの空穂の生家で、信濃毎日新聞社の上野啓祐記者が「死刑囚の短歌は問い掛ける〜連載『いのちと償い』から」と題して講演する。午後1時半から。無料。問い合わせは同館(電話0263・48・3440)へ。

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