福井県大野市の小倉長良さん(91)は明治、大正時代の広告「引き札」をコレクションしている。自宅の蔵で見つけたものや古本店で買ったものなど50点余りを手元に集め「色鮮やかで、当時の商店の状況が分かりおもしろい」と関心は尽きない。2月中旬まで、大野にまつわる25点を同市明倫町の福井銀行大野支店で展示している。
市文化財保護委員長を務めていた小倉さんは大の歴史好き。引き札は30年ほど前、祖父が自宅の蔵で保管していたとみられる20枚ほどを見つけて集め始めた。その後は古本店で買い求めたり、知人らから譲り受けたりして収集している。
展示は明治20、30年代のものを中心に、大野の呉服店や薬店、たばこ製造業などが作った引き札を並べた。店名とは異なる多様な品を販売品として記載している店が多く、小倉さんは「当時の店は何でも屋さんだったのかな」と考えを巡らせる。いずれも銅版や石版、木版などで刷られ、色鮮やかな絵柄や年間の暦なども盛り込まれている。
「引き札は、江戸時代以降から発展し各地に広がったようだ」と小倉さん。1997年に自身が引き札に関してまとめた冊子では「江戸は当時百万都市で消費者が多く買物案内書など情報が必要とされるようになった」と説明した。
一方で、大野は「小さな城下町で特別宣伝を行う必要がなかった」。さらに、明治時代の度重なる大火も影響し「現存数は極めて少ない。古い広告を見て、当時の古里の様子や歴史を感じ取ってもらえたら」と話している。