関西電力黒部ルートの2019年度の公募見学会が23日に始まる。同ルートは24年から一般開放されることが決まり、立山黒部の世界ブランド化に向けた目玉となる。21日に開かれた内見会に参加し、困難を極めた電源開発の歴史に触れつつ、ルートの魅力や観光化に向けた課題を考えた。
午前10時。黒部峡谷鉄道の終点、欅平(けやきだいら)にあるトンネルに入る。ここから黒部ダムを結ぶ約18キロの物資輸送路が、黒部ルートだ。普段は関西電力がダムや水力発電所の保全や修理のために使っている。
竪坑(たてこう)エレベーターで200メートルを一気に上昇し、黒部川第4発電所に向かう上部専用鉄道の車両に乗り込んだ。車体を大きく揺らしながらトンネルを進むと、卵の腐ったような臭気が立ちこめる。掘削工事で最大の難関「高熱隧道(ずいどう)」と呼ばれる地点だ。先ほどまでの冷気がうそのように、熱く湿った風がほおをなでた。
掘削時に岩盤温度が160度以上あったとされ、現在も40度近い熱を発している。戦前に国家的なプロジェクトとして工事が進められ、ダイナマイトが自然発火する危険を伴いながらの掘削は多くの犠牲を生んだという。
「クロヨン」の愛称で知られる地下式の第4発電所では発電機を見学。無人運転で、富山市から遠隔操作しているという。ひっそりとした施設で、水車のごう音が響いていた。最後に「インクライン」と呼ばれる地下ケーブルカーと専用バスを乗り継ぎ、午後1時、黒部ダムに到着した。
展望台に立つと、雲間から北アルプスの赤牛岳が見えた。ダムや発電所を造るため、雄大な黒部峡谷にトンネルを貫いたことにあらためて驚かされる。電源開発の歴史を肌で感じられるルートだった。と思うと同時に、「観光」という華やかなイメージとは遠い行程とも感じた。
途中で仙人谷ダムなどの眺望スポットはあるが、基本的には地下トンネルを工事車両で進む行程だ。内見会では関電の職員が同行し、意義を熱く語ってくれたことで、知的好奇心がかき立てられた。ただ、旅行商品化された時は誰がガイドを担うのだろうか。
2018年10月、関電はこれまでの公募見学会の5倍となる年間最大1万人を受け入れることで県と合意。関電側は安全対策を担い、県はルートを行程に組み込んだ旅行商品を企画・運営することとなっている。電源開発のストーリーをしっかりと理解してもらう仕組みも考えなければならないだろう。
また、落盤対策や避難経路の整備などの安全対策も課題だ。特に高熱隧道がある上部専用鉄道の区間はトンネルが狭く、車両火災があった場合は逃げ場がないと感じた。本来の電気事業で同ルートを使いつつ、対策工事を行うのは時間がかかることが予想される。一般開放の24年までに確実な施工が求められそうだ。
関電黒部ルートの公募見学会は11月13日まで計38回開かれ、応募を受け付けている。欅平発と黒部ダム発の2コースあり、定員は各30人。応募が多ければ抽選となる。ルート内での移動費は無料。
19年度は初めて土日にも開き、既に締め切った7月6日(土曜)は欅平発で応募倍率が9・7倍となっている。
問い合わせは関電北陸支社内の事務局、電話076(442)8263。