販売所の正面に置かれた「トイレの神様」=油車

販売所の正面に置かれた「トイレの神様」=油車

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トイレの神様 「金沢の風習」を無人販売

北國新聞(2019年7月5日)

 片町のにぎわいに別れを告げ、静かな大通りを突き進むと、ぼろぼろの小屋が目に飛び込んだ。敷居をまたぐと、屏風(びょうぶ)の前に立つ小さな男女一対の土人形が出迎えてくれた。なぜ、こんな古めかしい建物にたたずんでいるのか。そこには、先代で幕を下ろした実家の商いを次代に生かそうとする店主の姿があった。(向島徹)
 建物は新竪町商店街の入り口近く、犀川大通りに面する油車にある。広さ約20平方メートル。さびたトタンの外壁に、うっすら残る黒い落書きの跡が、長い年月を物語っている。
 外壁には「金沢ゆかりのトイレの神様 願い事書くまっし!」や「無人販売」の張り紙も。え?神様を売ってる? 気になって、「連絡先」として記載されていた店主の村井円さん(41)=入江1丁目=にコンタクトを取った。
 「もともと曽祖父がはじめた陶器店の倉庫でした。売れ行きが悪化して5年前に父の代でたたんだんです」。大正時代に幸町で創業し、その後、倉庫横で営業を続けたという。閉店後は売れ残った商品を一時期、無人販売していたそうだ。
 「私が生まれる前から店は続いていた。自分が頑張れば、もう少し何とかできたのでないか」。村井さんはそんな自責の念に駆られ「自分のできる範囲で商売をつなげよう」と今年4月、金沢の文化を伝える無人販売所を作ることにした。
 冒頭の土人形は、金沢で新しくトイレをつくる際に便器の下に埋める「トイレの神様」で、店の在庫に一種類だけ残っていたものを展示しているらしい。とりあえず神様を売っているわけではなくて、安心した。
 花嫁のれんが掛けられた店内には「トイレの神様」をモチーフにした木製や和紙の「神様」が100~500円で売られている。これに願い事をしたためて、店内の結び処(どころ)に飾る仕組みだ。
 正月の縁起菓子「辻占(つじうら)」をモチーフにした3色の星形折り紙を含めて、いずれも工作が趣味の村井さん手作り。壁には「ゴミ捨て禁止 だっちゃん(だめ)!」「お金、こわせません(両替できません)」と金沢弁の注意書きも張った。
 かつて、商店街のにぎわいを支えた老舗店は姿を消し、近年は若者向けのおしゃれな店舗が構える通りとなった「しんたて」。「ぼろぼろだけど、一年中願い事ができる七夕のような場所にしたい」という村井さんの思いがかなうよう、短冊に願いをしたためてみようか。

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