福井県福井市の福井県立美術館の特別企画展「スーパークローン文化財展」に合わせて、技術の生みの親である東京芸術大学名誉教授、宮廻正明さんが7月13日来館し、講演した。宮廻さんは「文化財の最高の『保存』は見せないことだが、『公開』しなければ価値を共有できない。本物を超越した精巧さのクローン文化財なら矛盾を解決できる」と強調した。
宮廻さんは東京芸大で日本画の大家平山郁夫さんに師事し、保存修復の道へ進んだ。だが手による模写は、膨大な時間がかかる上に携わった人の癖が出る。取り組んだのが、最先端デジタルとアナログ技術の融合だった。
単一の樹を始源とするクローン桜でありながら、人々に愛されているソメイヨシノにヒントを得て名付けた「クローン文化財」。その価値は「オリジナルの超越」だという。テロで失われた遺跡や3Dスキャナーが入らない場所の場合、復元のためのデータが不足する場合もある。だが「東京芸大が持つ創造性や技術、科学的な分析力、美術史の見地を総合することで、データは補える」と宮廻さん。国宝「釈迦三尊(しゃかさんぞん)像」の再現では、オリジナルが欠損している部位も補い、創建当時の姿へ戻すことに成功した。
宮廻さんは「スーパークローンは流出文化財の返還問題の解決策になりうる。文化外交に役立てば」とし「オリジナルという価値にこだわるのではなく、文化の本質を次世代へ継承していくことが重要」と語った。
「スーパークローン文化財展」は8月25日まで。