田の神様をもてなす様子を生中継する関係者=能登町山口集会所

田の神様をもてなす様子を生中継する関係者=能登町山口集会所

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奥能登の各地 農耕儀礼「あえのこと」営む

北國新聞(2020年12月6日)

 田の神様を家に迎えてもてなす奥能登の農耕儀礼で、2009年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産に登録された「あえのこと」が5日、各地で営まれた。今年は新型コロナ対策のため、外部見学者の受け入れ中止やオンラインによる配信などの対応が取られ、伝統行事の発信と安全確保の両立に苦慮する関係者の様子がうかがえた。

◇珠洲・若山
 珠洲市若山町火宮の田中茂好さん(68)方では、今年は外部の見学者を受け入れず、家族だけで神事を行った。田中さんは例年通りに裃(かみしも)姿で田の神様に今年の収穫に対する感謝の言葉を伝え、料理や風呂などでもてなした。
 座敷には小豆飯やブリの切り身などの料理を並べ、田中さんは目が見えないと伝わる夫婦の神様の手を引いて席まで案内した。田中さんは「コロナで世の中が浮つく中、落ち着いた雰囲気の中で神事ができた」と振り返った。
 2月9日には神様を田に送る神事を行う予定で、田中さんは見学の再開について「今後の状況を見ながら判断したい」と話した。

◇能登・山口
 集落合同で儀礼を営む能登町山口地区では東大生と大学院生4人がオンラインで参加し、住民が田の神様をもてなす様子を見学した。
 主人役を務めた吉延孝治さん(66)が神様を田んぼから山口集会所に案内した。集会所では煮しめや小豆飯、尾頭付きのタイなど山海の幸でもてなし「ゆっくり休んでください」と語り掛けた。吉延さんの一連の所作はスマートフォンで撮影され、都内にいる学生に届けられた。
 直会では、学生が集会所にいる住民と同じ山口地区で収穫された食材を使った料理を用意し、画面越しに住民約20人と会話を楽しみながら味わった。学生は「住民の温かい気持ちに触れることができた」と語り、中谷光裕区長(49)は「離れていても神様や山の恵みに感謝する気持ちが理解してもらえたと思う」と話した。
 オンライン中継はあえのことの新たな継承策を探る狙いで初めて取り入れた。学生は山口地区の関係人口創出をテーマに研究を進めており、今回の見学を通じてオンラインを活用しながら出身者や都市部の住民らに儀礼に関わってもらえるような仕組みづくりを考える。
 柳田植物公園の古民家「合鹿(ごうろく)庵」では町あえのこと保存会の中正道さん(69)が田の神様をもてなした。新型コロナで見学者は約30人と例年より少なく、検温やマスク着用など感染症対策を図って実施した。国重(くにしげ)の吉村安弘さん(77)方では住民が一緒になって田の神様を迎えた。

◇輪島・白米
 輪島市白米(しろよね)町の公務員川口喜仙(よしのり)さん(56)は、紋付き袴(はかま)姿で、国名勝「白米千枚田」近くの棚田に向かった。米、塩、お神酒で清めた後に鍬(くわ)を入れ、目が不自由な夫婦神を家に案内した。
 干し柿や茶わん蒸し、尾頭付きのタイなど山海の幸でもてなし、「コロナ禍で大変な一年でしたが、神様のおかげで無事に農作業ができました」と語りかけた。
 今年は新型コロナの影響で、留学生らの来訪はなかった。川口さんは「父親から受け継いだ儀礼を今後も続けていきたい」と継承を誓った。

◇輪島・三井
 輪島市三井町小泉前田の茅葺(かやぶき)庵档(あて)の館では「田の神様まつり」として、三井公民館の山形孝嗣(たかつぐ)館長(77)が夫婦の神様を迎え、豊作や家内安全への感謝を述べた。保存会の約20人が見守る中、裃(かみしも)姿の山形さんがマツとクリの枝を束ねたより代で家に招き、輪島に伝わる米菓子「すいぜん」などが盛られた膳でもてなした。

◇穴水・藤巻
 穴水町藤巻の森川祐征さん(81)方では、自宅前の水田から神様を迎えた。タイの刺し身や直径30センチほどの大きなおはぎを前に、森川さんが杯に酒をつぎ「今年は大変な年でしたが、何とか豊作となりました」と感謝を伝えた。
 いずれも新型コロナの影響で、例年行っている園児や児童、観光客の見学は見送った。

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