明治期の金沢に生まれた絵師・小原古邨(おはらこそん)の花鳥版画などを一堂に集めた特別展「小原古邨-海をこえた花鳥の世界-」(石川県立歴史博物館、北國新聞社主催)の開場式が23日、金沢市の同館で行われた。24日から一般公開し、鋭くも優しいまなざしで自然美を見つめた「知られざる絵師」の画業を伝える。
古邨は加賀藩士の家に生まれ、花鳥風月を描いた木版画が欧米を中心に人気を集めた。絵師としての足跡には不明点が多く、国内では無名の存在だったが、近年、中外産業(東京)の原安三郎コレクションから大量の古邨作品が見つかったのを契機に再評価の動きが加速している。
今展では、同コレクションが所蔵する版画などを中心に、前期は202点、後期は199点を展示する。
開場式では、主催者代表の藤井讓治県立歴史博物館長、久保幸男北國新聞社取締役事業局長、来賓の平尾宰中外産業社長があいさつした後、テープカットが行われた。
式典には、古邨の孫に当たる小原(おばら)英樹さん(78)=千葉県在住=も駆け付けた。3歳の時に死別した祖父・古邨について、小原さんは「自分にとっても、かつては幻のような存在だった。おじいさんの絵が故郷に錦を飾り、日の目を見ることをうれしく思う」と話した。今展には小原さんが所蔵する作品も展示される。
作品は前・後期で展示替えする。前期は5月23日まで、後期は同26日から6月27日まで。入場料は一般1千円、大学生800円、高校生以下無料。
会場には、世界最高峰の腕時計ブランド「パテックフィリップ」(スイス)が古邨の花鳥版画をデザインに取り入れた希少な腕時計もお目見えした。
盤面に梅とウグイスがあしらわれた腕時計は、2019年に4種の図柄で製作されたうちの1本。「クロワゾネ七宝(しっぽう)」の技法を駆使し、描線は太さ0・05ミリの金線を用い、30種類の釉薬(ゆうやく)によって繊細な色調を表現している。
パテックフィリップを専門に扱う都内のブティックでオーナーを務める角田修一朗さんが展示作業を担当した。角田さんは、同社が作家性の強いデザインを採用する例は珍しいとした上で、「欧米では、古邨は葛飾北斎などと同じく日本的な美の象徴としてポピュラーな存在だ」と述べた。