福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館(福井市)は9月7日、4代当主朝倉孝景に公家が授けた蹴鞠(けまり)の免許状(伝書)と、幕末ごろに描かれたとみられる一乗谷の古絵図を入手したと発表した。朝倉氏一族に宛てた芸能伝書の原本は希少で、同館は「文化繁栄の証明書ともいえる史料」としている。10月1日に開館する県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館で新収蔵資料として2点を公開する。
蹴鞠伝書は、縦32センチ、横2メートル68センチの巻物。1508(永正5)年、現在の越前町に所領があった公家の飛鳥(あすか)井雅康(いまさやす)が当時16歳の孝景(通称孫次郎)に授けた。蹴鞠の動きや姿勢に関する12の心得が和紙に記され、奥書には孝景の名前や雅康の花押がある。
朝倉氏遺跡資料館によると朝倉氏一族や家臣は蹴鞠や和歌、能楽といった芸能を盛んにたしなんでいたが、現存する文字史料は少ない。朝倉氏の当主や一族に授けられた芸能関係の伝書の原本は、同じく雅康から武将の朝倉宗滴(そうてき)に授けられた和歌伝書(県立歴史博物館蔵)しか知られていない。
今回の伝書は城下町焼失時に持ち出されたとみられ、朝倉氏遺跡資料館は富山県高岡市の個人から購入した。同市指定文化財(現在は解除)で、存在は知られていた。
古絵図は新発見の史料で縦58センチ、横1メートル26センチ。一乗谷中心部が描かれ、武家屋敷や寺院など82カ所が墨書されている。作者不明だが、朝倉氏ゆかりの人物が制作を依頼したと考えられるという。墨書の大半は後に上から紙が貼られ、同じ内容がより大きな文字で記されていた。朝倉氏家臣の子孫とされる県内の個人から寄贈された。
同様の古絵図は遺跡近くの安波賀(あばか)春日神社にも伝わっており、遺跡研究の基本史料として利用されてきた。今回の古絵図と、記されている名称や構図がほぼ共通しており、文字の部分は筆致から同一人物が記したとみられる。朝倉氏遺跡資料館は「作者が参照した、より古い絵図があった可能性が高い」としている。
特別館長は「朝倉氏遺跡の研究を深める上で価値ある史料。特に蹴鞠伝書は見た目も美しく、じっくりと味わってほしい」と話している。