福井県おおい町出身の直木賞作家、水上勉さん(1919~2004年)没後20年の特別展「直木賞作家 水上勉の軌跡」が同町岡田の若州一滴文庫で開かれている。水上さんが自作した骨壺(こつつぼ)を初公開したほか、直木賞受賞までの足跡、作品誕生のプロセスが分かる貴重なメモなど約100点の資料で直木賞作家の実像を浮き彫りにしている。来年2月3日まで。
軌跡をたどるタペストリー展示では、直木賞作家となるまでの苦労、人との出会いがあったことがうかがえる。
水上さんはデビュー作「フライパンの歌」(1948年)がベストセラーになった後、10年以上ヒット作に恵まれなかった。50年代後半、小説家・川上宗薫さんに出会うと、編集者・坂本一亀さんを紹介されたのが躍進の契機となった。
坂本さんは、水上さんの作品「霧と影」では何度も修正し、書き直しも要求した。結果的にこの作品が59年の直木賞候補に。その後も2度候補に選ばれ、61年の「雁(がん)の寺」で直木賞作家となった。展示では、これらの変遷が年代を追って紹介されている。
作品が生まれるまでの興味深い資料も。「金閣炎上」(79年)では、現場となる金閣寺まで5度も取材に行ったとされるメモを展示。現地を実際に訪れ、情景を文中に落とし込んでいったプロセスが分かる。
初公開された自作の骨壺は、取っ手にカメとツバキが装飾されたもの。大病を患ったのをきっかけに、骨壺こそ(死後の)終の棲家ではないかと自問し「骨壺の話」(94年)を出版。その後、骨壺を自作するようにもなったという。著名人らに展示販売も行い、作家とは異なる多彩な才能の一端を知ることができる。
一般300円。高校生以下は無料。午前9時~午後5時。火曜休館。