「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を機に、佐渡への観光客を周辺に呼び込んだり、相乗効果を図るため連携してPRしたりする動きが新潟県内各地で活発化している。お得なクーポンや佐渡を交えたモデルコースを用意して売り込みを強化。佐渡を訪れたことのない県内客や、旅先に滞在して仕事をする「ワーケーション」需要の掘り起こしを狙った取り組みも始まっている。
◆金山との相乗効果で錦鯉PR、佐渡を交えた周遊コースも
佐渡金山を訪れる観光客が立ち寄るガイダンス施設「きらりうむ佐渡」(佐渡市相川三町目浜町)のロビーに設置された水槽には、金銀の錦鯉が悠々と泳いでいる。世界遺産登録を祝い、2024年10月に小千谷市が佐渡市に贈ったものだ。
寄贈を機に、小千谷市は品評会をはじめ錦鯉を発信する場で、のぼりを設置するなど佐渡金山も一緒にPRするようになった。輸出が盛んで海外の愛好家も多い錦鯉と金山との相乗効果で、交流促進や県内全体の活性化につなげたい考えだ。
24年7月に佐渡市と誘客交流連携協定を結んだ田上町は「道の駅たがみ」などに佐渡観光のポスターやパンフレットを並べる。
同町の湯田上温泉「ホテル小柳」は3、4年前から佐渡産食材を使った宿泊プランを売り出している。町の担当者は「(佐渡航路がある)新潟港から最も近い温泉地であり、マイカーで佐渡に渡る人などに立ち寄ってもらいたい」と語る。
佐渡航路がある新潟、上越両市でも需要を取り込もうと動く。佐渡旅行の前後に両市に滞在してもらうプランを企画。"素通り"に待ったをかける。
新潟市は24年5月から「さど旅得プラン」を始めた。25年3月上旬宿泊分まで続けており、市内の宿泊施設で一定額の宿泊代を負担した人に5000円分の商品券を配布中だ。
上越市は24年9月から、小木-直江津航路が運航する11月上旬まで「佐渡旅クーポン付きプラン」を実施。1泊7000円以上利用した人は、宿泊割引や飲食店などでクーポンが使えて計5000円お得になる仕組みだ。上越市によると、こうした取り組みは初めて。長野や東京などから206泊分の利用があった。
多くの参拝客が訪れる弥彦村では、地元観光協会が24年末、佐渡を交えたモデルコースの特設サイトを作った。「One More Stay」を掲げ、弥彦神社などを電動バイクで回り、弥彦で宿泊した翌日、佐渡に渡り、金山や島のカフェを巡るコースを設定。カフェや撮影スポットなどを多く紹介するなど、20〜40代の女性目線で考案したという。
弥彦と佐渡の周遊の機運を高めようと、弥彦観光協会などが運営する予約制乗り合いタクシーは、2、3年前から新潟港佐渡汽船ターミナルを乗車場の一つに加えた。三富克是(かつよし)事務局長は「弥彦と佐渡の組み合わせを商談会で積極的に発信したい」と力を込める。
各地の取り組みについて、佐渡市の渡辺竜五市長は「佐渡は新潟県の奥地にあり、島だけに人が来るという発想はない」と話す。「世界遺産をきっかけに連携し、県内をゆっくり楽しむ周遊の仕組みをつくりたい」と今後を見据える。
◆冬の誘客にワーケーション需要掘り起こし
佐渡観光では、悪天候が続く冬季の誘客が課題となっている。佐渡市は冬にスキー客でにぎわう妙高市と連携し、ワーケーション需要の掘り起こしに乗り出した。また、県などは、まだ佐渡を訪れていない県内客にアピールする日帰りツアーも実施。金山の世界遺産登録後はほぼ満員となり関心の高さがうかがえた。
パウダースノーで外国人の人気を集める妙高市は、佐渡市と連携してワーケーション誘致に取り組む。JR東日本の商品を活用し、佐渡市単独か両市を宿泊地にしてワーケーションを行う企業に新幹線や宿泊の費用を割り引くもので昨夏から3月下旬まで販売中だ。
妙高市企画政策課の担当者は「妙高は山があり冬場に多くの人が訪れる。佐渡は海が魅力で夏場にぎわう。互いに補完しながら周遊につなげたい」と強調する。
妙高市は、海外からのスキー客が多く、ホテルなどリゾート開発の計画も進められている。ワーケーションでの連携が、将来的に訪日客も含めた誘客につながる可能性もある。
また、県などは県内客の需要掘り起こしも視野に入れる。長岡佐渡広域観光協議会では24年8月、寺泊-小木間で高速船チャーター便を使った日帰りツアーを3日間実施した。観光利用の促進を図ろうと、19年から続く取り組み。24年は約320人と定員がほぼ埋まった。
県によると、ほとんどが県内客で初めて佐渡に行く人も目立った。25年も事業化を目指す考えで県港湾振興課は「佐渡を知ることで、リピーターになってもらいたい」と期待を寄せる。
県観光協会の白井健一事務局長は「(一度の来訪で)県内を周遊するのは簡単ではない。佐渡に来て、新潟県の良さを知ってもらい、再訪を促す方法もある」と話している。