越前和紙の里を舞台に開かれる第31回今立現代美術紙展が4月27日、越前市いまだて芸術館で開幕した。今年は「今立アートキャンプ春展」と題し、同展として2007年以来となる滞在型のアーティスト・イン・レジデンスを実施。公募で集まった国内外のアーティスト9人が、現地で伝統工芸の和紙と向き合って創作した現代アートを披露している。5月6日まで。
アーティストは福井や東京、奈良、大阪、岡山、シンガポールなどから参加。県内高校生も挑戦している。4月17日から今立地区に滞在し、製紙場を見学したり、紙漉(す)きを体験したりして職人と交流。1500年の歴史を誇る伝統の技を感じながら、同芸術館などで公開制作を進めてきた。展示は壁だけでなく床や天井も使って、空間全体を和紙アートで演出している。
福井県出身の小林桐美さん(奈良)は、福島原発事故後に避難区域に取り残されて死んでいった家畜に対するオマージュの作品を制作。骨と皮になって大地に帰ろうとしている子牛の姿を和紙を幾重にも貼って表現した。「美しい水と環境に包まれ千年以上守られてきた越前和紙と、使い方を間違うと悪影響を千年以上残す原発。見る人の時間の感覚、価値観を問い直したかった」(小林さん)
普段は新聞紙を使ったアートなどに取り組む黒田久美子さん(福岡)は、自分に問いかけた「情熱はあるか」という言葉の一文字ずつを立体的に表現して配置した。黒田さんは「和紙職人の静かな情熱に触れ、大切に和紙を使おうと思った。自分の中にもまだまだ情熱があることも確認できた」と話す。
オープニングでは、滋賀県近江八幡市で続くアーティスト・イン・レジデンスの芸術祭「BIWAKOビエンナーレ」の中田洋子総合ディレクターと、同展実行委の増田頼保代表が対談。中田さんは、同市に残る築数百年の古民家や酒蔵、寺院などと現代アートを融合させたこれまでの展示を振り返りながら「地元の人たちとの交流も含め、完成までのプロセス自体が作品の一部」と語った。
入場料は大人999円、高校生200円、中学生以下は無料。今立アートキャンプは10月に「秋展」も行う。