斜めから見た時だけ、外の景色がゆがむ「大正ガラス」の建具が残る小松市瀬領町の古民家を生かそうと、同市若杉町の男性がそば店として活用している。かつては郵便局の店舗兼住宅として利用された建物で、内装を改修し、一からそば作りの修行を積んでオープンにこぎつけた。現在は日曜限定の営業だが、定年退職する2年後には本腰を入れるという男性は「貴重な建屋を含め、地元に長く愛される店を目指したい」と話している。
そば店を開いたのは市内の製造業に勤務する林勝也さん(61)。リタイア後の生活を考えていたところ、瀬領町出身の義父松井國紀さん(83)から、古民家を使って地域を盛り上げられないかとそば店の開業を提案されたという。
古民家は瀬領郵便局が1944(昭和19)年に移転した際に新築された建物。大正時代に作られた大正ガラスは縦140センチ、横80センチのガラス窓に12枚設置されている。手作りのため一つとして同じものはないとされる。
そば打ちの経験はなかったという林さんだが、大正ガラスをはじめ、歴史を刻んできた建物の雰囲気に魅了され「この場所ならできるかも」と一念発起。2017年から3年間、週末に片道2時間かけて福井県池田町などでそば打ちの指導を受けた。
●日曜限定の営業
コロナ禍で指南してくれた職人が店を辞めるなど、先行きが不安になることもあったという。それでも、昨年10月に日曜限定で手打ちそば「えん」をオープン。大正ガラス越しの景色や、神代杉のテーブルを楽しみながら福井県産のそばを味わうことができる空間を提供している。
「ここで働いたことがあるんや」と当時を懐かしむ地元住民もいるとのことで、林さんは「そば職人になれるか悩んだが、この場所のぬくもりを多くの人に感じてもらい、ご縁をつないでいけるような店にしたい」と意気込んでいる。