3幅一対の「立山博物館I本」を紹介する細木学芸員

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立山曼荼羅の掛け軸3幅一対、新たに発見 立山博物館7月から公開、他にない地獄の描写

北日本新聞(2024年5月29日)

 立山信仰の布教に使われた「立山曼荼羅(まんだら)」の掛け軸3幅一対が新たに見つかった。立山博物館(立山町芦峅寺)が28日収蔵し、「立山博物館I(アイ)本」とした。同館が確認した立山曼荼羅は54点目で、他にない地獄の描写が複数あるのが特徴。立山黒部貫光(富山市)所蔵の「立山黒部貫光株式会社本(TKK本)」と構図が似ており、これを模写したものとみられる。7月2日から10月14日まで2点を並べて特別公開する。

 立山曼荼羅は立山信仰の内容を描いた絵図で、布教を担った宿坊の衆徒が絵解きに用いた。芦峅寺地区では女性救済の儀式「布橋灌頂会(ぬのばしかんじょうえ)」の様子を描いた絵図、岩峅寺地区では立山の地形や宗教施設を描写したものが多く使われた。今回収蔵した立山博物館I本は芦峅寺系に分類される。

 3幅一対の立山曼荼羅はこれまで、TKK本を含む4点が確認されていた。立山博物館I本は、右下に大きく布橋灌頂会が描かれ、左に立山地獄の責め苦を配する構図がTKK本と類似する。特に、称名滝の部分に「南無阿弥陀仏」の文字が記されていたり、剱岳の塔の上部に仏の姿が描かれていたりするのは、54点の立山曼荼羅の中でこの2点だけに共通する表現だ。

 制作時期や作者は不明だが、TKK本が江戸時代後期の文政期(1818~31年)ごろと推定され、立山博物館I本はそれ以降とみられる。立山博物館の細木ひとみ学芸員は「色合いやタッチが大きく異なり、同じ人物が描いた可能性は低い」という。

 左の軸には、従来の立山曼荼羅にはない地獄の描写も複数ある。雷に打たれているような男や、火を吹きながらおけで何かを洗う人々などだ。中央の軸のみくりが池に人をくわえた竜が描かれている点も、他に例がない。細木学芸員は「作者はTKK本の構図を基にしつつ、個人的に聞いた伝説などに基づき、新たな絵柄を加えていったのではないか」とみる。

 立山博物館I本は、長野県の収集家が2009年、ネットオークションで落札したものを購入した。当時の商品説明には「富山県で3代にわたり続く歯科を営む旧家から出品された」と記載されていたという。細木学芸員は「元の所有者が分かれば、どこの宿坊が使っていたかなど、作品の来歴がさらに見えてくるかもしれない。新たな情報が入り、研究が進展することを期待したい」と話している。

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