南砺市猪谷(上平)の元民宿だった空き家に、千葉県八千代市から多賀野公太さん(33)、香菜子さん(32)夫妻が移住した。登山やスキーなどアウトドアスポーツを趣味とする2人は「自然に抱かれ、生活すること自体を楽しみたい」と五箇山を選んだ。住民も過疎に悩む集落の担い手として2人を歓迎する。
2人は昨年、東京であった「とやま暮らしセミナー」で、南砺市篭渡(かごど)(平)に2年前に移住した浦田謙太郎さんの話を聞き、五箇山での生活に魅せられた。4月から五箇山に移り、市が移住希望者の体験ハウスに使っていた同市下島(上平)の空き家を仮住まいにして物件を探していた。
ひょんなことから猪谷との縁が結ばれた。下島の家の天井裏にすみつくハクビシンを捕獲。猟師で郷土料理店「高千代」を営む猪谷住民の高桑四郎さん(58)に処分の相談に行った際、猪谷に来ないかと誘われた。集落総代の坂本宏史さん(59)が空き家所有者との仲介をし、11月に引っ越した。冬を経験し生活に慣れるまでは賃貸とし、いずれは購入を検討していく。
千葉でアウトドアショップ店員だった多賀野さんは五箇山荘の指定管理者、五箇山企画に勤務し、ドアハンドルのデザイン設計をしていた香菜子さんは高千代や五箇山和紙の里でアルバイトする。将来は部屋数が多い家を生かし、観光客や移住希望者が気軽に集い、宿泊できる「ゲストハウス」経営の夢を描く。
多賀野さんは「腰を据えて住める家に出合えた。畑もやって自給自足する生活を楽しみたい」と話し、香菜子さんも「収入は前より減ったけど心や暮らしぶりは断然豊かになった」と笑みを見せる。
猪谷は多賀野さん夫妻が加わり19世帯になった。坂本総代は「若い人にはこっちからお金を払ってでも来てほしかったのでうれしい。獅子舞や普請の担い手として期待している。時には励まし、時には叱り、過保護にならないよう見守っていきたい」と話す。