昨年12月22日に開かれた北國宝生能で山伏役を演じる渡貫さん=金沢市の石川県立能楽堂

昨年12月22日に開かれた北國宝生能で山伏役を演じる渡貫さん=金沢市の石川県立能楽堂

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北陸で31年ぶりのワキ方能楽師誕生 金大大学院の渡貫さん 「加賀宝生の伝統つなぐ」

北國新聞(2020年1月10日)

 北陸で31年ぶりとなるワキ方の能楽師が金沢に誕生した。渡貫(わたぬき)多聞さん(24)=金大大学院2年=は昨年11月、下掛宝生(しもがかりほうしょう)流(りゅう)宗家の許しを得て、全国のプロの能楽師が所属する能楽協会に入った。主役の相手役であるワキ方はなり手が少なく、高齢化が進む。金沢能楽会入りで5人目のワキ方となる渡貫さんは「加賀宝生の伝統をつないでいきたい」と、日々研さんを重ねている。
 渡貫さんは金大3年の時に下掛宝生流ワキ方の殿田謙吉さんに入門。大学、大学院で日本史研究の傍ら稽古を積み、北陸では、北島公之さん以来となるワキ方となった。近く金沢能楽会にも入る。
 新潟県出身の渡貫さんが能楽師を志したのは金大進学がきっかけ。「金沢らしいことに触れたい」と同大の能楽サークル「金大宝生会」に入会すると、たちまち能のとりこになった。
 能楽は、シテ、ワキ、狂言、囃子から構成される完全な分業の世界で、渡貫さんはワキ方を選んだ。
 亡霊や精霊など浮世離れした役柄のシテに対し、ワキは現世の人間としてシテの引き立てや観客との橋渡しに徹する役回りである。舞台上での役柄の重要性や奥深さに引かれたといい、「大学から専攻している中世の人々を演じられることがうれしい。当時にタイムスリップするような特別感がある」と魅力を語る。
 能楽界では現在、後継者不足が課題になっている。中でもワキ方の不足は深刻で、現在、能楽協会に所属する1113人の能楽師のうち、ワキ方は50人。加賀宝生の伝統の厚みを誇る金沢能楽会でも72人中、4人のみである。公演日程や演目が、ワキ方のスケジュールに左右されることも多いという。
 ホープの登場に殿田さんは「金沢だけでなく、能楽協会全体にとっても明るい話題。幅広い芸風を持ったワキ方となって、全国の舞台で活躍してほしい」と大きな期待を寄せる。
 渡貫さんは既に舞台への出演を重ねており、昨年12月22日に金沢市の石川県立能楽堂で開かれた北國宝生能特別企画「能で冬を楽しむ」(石川県能楽協会、北國新聞社主催)でも、能「葛城(かづらき)」で堂々とした演技を披露した。渡貫さんは「長い修業になるとは思うが、先輩から信頼される演技ができるように精進していく」と意気込んだ。

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