昨年11月末に閉園した塩尻市北小野の「信州塩尻農業公園チロルの森」。園内で飼育され、親子連れらに親しまれた牛やヒツジ、アルパカなど約100頭の動物の多くは県外施設に移ったが、一部は県内の牧場などに引き取られた。今も元気に過ごしているのだろうか。千曲市と富士見町の牧場を訪ねた。
■ジャージー牛の「アオイ」 催しで「触れ合う機会を」
「こんなに人懐っこい牛は見たことないよ」。19日、千曲市八幡の千曲高原牧場。つぶらな瞳で指をなめてくるジャージー牛の「アオイ」をなでながら、牧場を営む村山義治さん(79)=千曲市屋代=は笑顔を見せた。
雌のアオイは12歳。乳牛品種のジャージー牛は、乳量はホルスタインより少ないが乳の乳脂肪率が高く、こくのある風味が特長だ。だが、乳牛は9歳ごろから乳量が落ちる上、アオイは近年発情がなくなり、乳を出すのに必要な種付けができなくなっていた。引き取り手が見つからず、「つぶす(処分する)しかないかもしれない...」との声が出始めた頃だった。
「情が移ったね」。事情を知った村山さんが引き取りを申し出た。しばらくは餌を食べる際に他の牛から角をぶつけられることもあったが、最近は仲良く過ごしている。
村山さんは「牛に引かれて善光寺参り」の故事にちなみ、戸倉上山田温泉(千曲市)から長野市の善光寺まで歩く催しなどに牛を貸し出している。新型コロナの影響もあってアオイの出番はまだないが「いずれは催しに貸し出して、動物と触れ合う機会をつくりたい」と話す。
■アルパカの「アサヒ」 元従業員とトレーニング中
チロルの森の元従業員と共に過ごしている動物もいる。雄のアルパカ「アサヒ」は、富士見町の「八ケ岳アルパカ牧場」に引き取られた。今年3月にはチロルの森で飼育を担当していた佐藤ひでさん(24)も牧場で働き始めた。新たな就職先に見知ったアサヒがいることで「心細さがやわらいだ」と笑顔で話す。
当初は環境変化に戸惑い、人に触られるだけで大きな鳴き声を上げていたというアサヒだが、他のアルパカと共に過ごすうちに少しずつ落ち着きを取り戻してきた。今は来園者と触れ合えるよう、人につばを吐かないようにするトレーニング中。佐藤さんも「お客さんがいかに動物を身近に感じてもらえるかを大切に、牧場でも頑張りたい」と日々の仕事に励んでいる。