小松駅前に昭和の風情を残す喫茶店がある。創業55周年を迎えた小松市飴屋町の「パーラーアコ」。マスターは92歳の岡野信夫さんだ。心地のいいジャズが流れ、大盛りのナポリタンが開店当初からの看板メニュー。近年、常連の20代女性がSNSで店の発信を始めると、若い観光客も足を運ぶようになった。来年3月の北陸新幹線延伸を控え「これからも小松に貢献したいという気持ちで店に立ちたい」と変わらぬスタイルで新幹線時代を迎える。
店は小松駅西口から約200メートル。アーケードがある商店街「猫ばし飴屋通り」から1本通りを入った場所にある。
店内には開店当時から掲げられているメニュー看板があり、年季の入ったスピーカーからは重厚なジャズが響く。カウンターも座席も昭和の雰囲気が色濃く残り、岡野さんは「お客さんに教えられ、助けられてここまで来た」と振り返る。
メニューのナポリタンには「50年の魔力」という別名があるそう。一時提供しなくなった時期があったが、常連客の要望で復活し、「一度食べたら病みつきになる」との意味を込めて名付けられた。
そんな「パーラーアコ」をインスタグラムで発信しているのも常連客だ。市内のシステムエンジニア山根優雅さん(29)は3年前、偶然店を見つけて入るとタイムスリップした気分になった。
店に通ううちに、たくさんの人に魅力を知ってほしいと、許可を得てアカウントを作り、投稿を始めた。岡野さんの日常や店の様子などの写真を載せると「インスタを見て来た」と話す若者や県外の客が増えたという。山根さんは「マスターとお客さんの架け橋になれたらいい」と、来年1月に93歳になる岡野さんにスマートフォンを向ける。
近年、全国的に昭和の純喫茶が人気で、新幹線が県内全線開業すれば、多くの観光客が小松駅に降り立ち、「アコ」にもたくさんの人が足を運ぶことが想定される。「この店そのものが小松の観光スポットのようになるかな」とおどけながら、慣れた手つきでコーヒーを入れる岡野さん。店を始めた頃から年末年始を含め年中無休。これからも体力が続く限り営業したいと笑顔を見せた。