能登半島地震で一時孤立集落となった輪島市名舟町に伝わる県無形民俗文化財「御陣乗(ごじんじょ)太鼓」を守るため、同太鼓を制作する浅野太鼓楽器店(白山市)が支援に乗り出した。太鼓や400年以上受け継がれる面など貴重な関連品を1日までに同店に運び込み保管。故郷を離れて避難生活を送る御陣乗太鼓保存会メンバーの稽古場としてスタジオも開放し、石川を代表する太鼓文化の保全を目指す。
御陣乗太鼓の道具や関連の資料一式が収められている御陣乗太鼓会館は地震で損壊。展示ケースが割れて資料が散乱し、雨漏りも目立つが、太鼓や夜叉(やしゃ)、幽霊など多彩な面、文化財指定書などは被害を免れた。
浅野太鼓楽器店は古くから、名舟町の太鼓作りを担っている。同社は日本太鼓財団の被害調査に合わせて1月11日に現地入りし、保存会の意向を受けて、貴重な品々を中心に同社に「避難」させた。会館に残る物品は今後運び入れる。
名舟町で生まれ育った保存会員の北岡周治さん(66)、江尻浩幸さん(64)兄弟は地震後、避難所を経て現在は金沢と野々市の賃貸住宅でそれぞれの家族と暮らす。2人が昨年夏、渾身(こんしん)の奉納打ちを披露した名舟大祭の舞台は土砂で流され、近くに収納されているキリコの状態は不明だ。
故郷を思うと心配は尽きないが、2人は、「命と同じぐらい大事」と声をそろえる御陣乗太鼓の一式が保管されることに感謝する。
1日、同社を訪れた兄弟は地震後初めて、御陣乗太鼓の試し打ちを行った。北岡さんは「この響きが懐かしい。いつか輪島で打ちたい」と久々の感触に感慨を込め、江尻さんは「ばちを持つと血が騒ぐわ。練習して力が落ちんようにしないといかん」と語った。
浅野正規専務は保存会の臨時拠点として同社のスタジオを活用してもらいたいとし、「御陣乗太鼓の音は、被災地の希望になる。能登の復興を願いながら全力で支えたい」と話した。