輪島市名舟町に伝わる県無形民俗文化財「御陣乗(ごじんじょ)太鼓」の保存会は7日、白山市の浅野太鼓楽器店スタジオで、能登半島地震の発生後、初めて合同練習を行った。避難生活を送るメンバーは仲間との再会を喜び、太鼓の感覚を味わいながら、心揺さぶる音を打ち鳴らした。北陸新幹線が県内全線開業する3月16日に金沢駅で太鼓を披露する計画で、被災地を元気づける音を響かせようと気合を入れている。
御陣乗太鼓保存会は地震後、会員18人と家族全員の無事を確認した。ただ、家屋の被害が甚大で集落も一時孤立。会員は金沢近郊で2次避難する人から能登に残り生活する人までいる。
浅野太鼓楽器店はこれまで保存会の太鼓を作り続けてきた。損壊した御陣乗太鼓会館から、主要な面など関連品を移動させて臨時拠点となった同店のスタジオで、今年の打ち初めをしようと会員に呼び掛けたところ、5人が集まった。
メンバーはウオーミングアップ後、面を着けずに一つの太鼓を囲んで代わる代わるばちを打ち付けた。にらみを利かせたり、雄たけびを上げたりして太鼓を鳴らし、勇壮で荒々しい音を響かせた。
野々市市の賃貸住宅で家族と暮らす江尻浩幸さん(64)は合同練習に備え、日々散歩して体力の維持に努めてきた。久しぶりの感触に「最初は指が震えたが、どんどん血の気が戻ってきた」と笑顔を浮かべた。
保存会事務局長の槌谷(つちや)博之さん(56)によると、本来は1月2日に名舟町で打ち初めをして1年のスタートを切る。保存会は輪島キリコ会館での無料実演や能登の宿泊施設での公演が年間を通じてあるため、「ほぼ毎日太鼓をたたいている」(槌谷さん)状態で、1カ月以上もばちを握らない生活は生まれて初めてだという。
槌谷さんは避難所を経て金沢市内のカプセルホテルで生活し、今後ペットの犬と入居できるアパートに入る予定だ。約1カ月後の北陸新幹線イベントを目標にスタジオで練習を続ける考えで、「やはり、みんなで太鼓をたたくと気持ちいい。音をさらに磨き、能登を盛り上げる力になりたい」と意気込んだ。