富山県美術館で開催中の企画展「エッシャー 不思議のヒミツ」では、オランダの版画家、マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898~1972年)が手がけた版画作品の不思議さを体験できるコーナーが用意されている。記者が会場を巡り、錯覚を駆使した「だまし絵」の世界に"没入"してみた。
羽生九段やバカリズムさんもファン
エッシャーは「視覚の魔術師」「奇想の天才」と呼ばれた20世紀の版画家。「だまし絵」や、幾何学的な図形で平面を埋め尽くすテセレーション(敷き詰め)の作品を手がけた。数学的な構造を取り入れた独創的な作風で、将棋の羽生善治九段やお笑い芸人のバカリズムさんら著名人のファンも多い。
自分の顔が作品の中に
緻密な版画を鑑賞しながら会場を進むと、一つ目の体験コーナーを発見。鏡状の球体を掲げたエッシャーの自画像「写像球体を持つ手」にちなみ、作品に入り込んだような写真が撮れるという。
作品の画像が映るモニターとカメラが設置されたブースに入ると、モノクロになった自分が球体の中に現れる。立ち位置を球体の真ん中に合わせて足元のペダルを踏むと、モニターの画面が6秒間静止。その間にスマートフォンなどで撮影するという流れだ。
早速挑戦してみた。カメラを見ながら足元のペダルを踏むのが難しかったが「焦らなくて大丈夫ですよ」とスタッフの方に優しく教えてもらい、無事に撮影できた。ちなみに県美術館の公式インスタグラムには、新田八朗知事が撮った写真が投稿されている。
無限の空間? 幻想的な「鏡の部屋」
さらに先へ進むと、入り口に「鏡の部屋」と書かれた大きな黒い箱が現れた。中に入ると、四方の壁と天井、床が鏡で覆われている。鳥のような形の白色のオブジェが反射し、空間が無限に広がっているように見える。
この幻想的なコーナーは、木版画「深み」から着想を得たそうだ。この作品では遠近法の表現を追求したというが、描かれたモチーフがなんとも独特だ。これって鳥? それとも魚? 県美術館の広報交流企画員、川浦美乃さん(47)は「一体何かは分からないんです。エッシャーの描く動物は特徴的で面白いんですよ」と笑う。
体が大きくなった?
「だまし絵」の版画が並ぶ終盤の展示エリアでも、大勢の人が集まるスペースを見つけた。家族連れや学生らが楽しそうに写真を撮っている。ここは壁や床がゆがんだ「相対性の部屋」。立つ場所によって、体が小さくなったり大きくなったりして見える。まるで「だまし絵」の中に入り込んだようだ。
会場では、作品も含めて写真撮影が可能。県美術館ではインスタグラムのキャンペーンを行っている。「#エッシャー展富山」を付けて写真を投稿すると、抽選で企画展のグッズが当たるそう。川浦さんは「力作の投稿をお待ちしています」と呼びかけた。
うちわ作りに没頭
館内で企画展に合わせたワークショップを行っていると聞き、体験してみることに。エッシャーが魅了されたテーマ、テセレーション(敷き詰め)を用いてうちわを作るそうだ。
約4センチ四方の正方形の厚紙から、オリジナルの型紙を作る。型紙に沿って2色の折り紙を切り取り、うちわの台紙に敷き詰めて貼り付ける。顔や模様を自由に描き込むと完成だ。
ワークショップに参加している親子連れの様子をのぞくと「これは何に見える?」という父親の質問に、「魚!」と子どもが即答。スタッフの方は「切って貼るのは大人の方が上手ですが、子どもの想像力にはかないません」と話した。
数学的な構造を取り入れ、見る人に驚きと発見を与えたエッシャーの版画。体験コーナーやワークショップを通じて、異なる角度から作品の世界を楽しむことができた。
企画展は30日まで。水曜休館。県美術館と北日本新聞社でつくる実行委員会など主催。(相川有希美)
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