昨年1月に90歳で亡くなった元福井大教授で、坂井市の画家、田中隆盛さんの回顧展(福井新聞社後援)が福井市の県立美術館で開かれている。学生時代から晩年の作品まで約60点が並び、画業70年の歩みをたどることができる。23日まで。
田中さんは東京美術学校(現東京芸大)油画科予科で学び、1956年から91年まで福井大で美術を教えた。6回の個展を開き、退官後も創作活動を続けた。回顧展は孫で作陶家の隆央(たかひさ)さん(33)が中心となり企画した。
「不条理3」(200号)は朝鮮戦争勃発時に描き始め、途中体調を壊すなど中断しながら約30年の歳月をかけて完成させた大作。傾く国連の建物、落ちてきそうな太陽、ハトを抱えた子どもなどを大胆なタッチで描き、平和の意味を問いかけている。
また、戦地から生還できないだろうと覚悟して残した自画像や好んで描いたというバラなど多彩な作品が並ぶ。
時代を追うように展示されており、筆のタッチや色使い、モチーフなど年を重ねるごとに変わる作風も感じることができる。晩年描いたという風景画は、穏やかな雰囲気が漂っている。会場には福井大の元教え子たちも訪れ、作品を通して田中さんをしのんでいる。
隆央さんは「生前は見てもらう機会が少なかったので多くの人に見てほしい。祖父もきっと喜んでいると思う」と話している。