福井県福井市の県立図書館内にオープンした県ふるさと文学館で、同市出身の芥川賞作家で同文学館特別館長・津村節子さんと、夫で作家の故吉村昭さんを特集した開館記念特別展が開かれている。写真や手紙、直筆原稿など資料約150点を披露。生い立ちから文壇での活躍まで2人の足跡をたどりながら、作家としての葛藤と夫婦の絆を伝えている。
津村さんは9歳の時に母親を亡くし、その後東京へ転居した。会場では、父親が1930年代に撮影した、足羽川の川べりで家族と触れ合う幼少期の動画を流している。
吉村さんは東京生まれ。学習院高等科時代に大病を患った。「俺なんか、厄介ものだ」と当時の心境をつづった直筆の随想録や日記が並ぶ。
2人が結婚前から交わした手紙226通を初公開。新居のことや文学に懸ける決意がうかがえる。
吉村さんは結婚後、就職するものの仕事に行き詰まり、津村さんを連れて東北、北海道へセーターを売り歩く放浪の旅に出た。その旅の様子を描き、新潮社同人雑誌賞を受けた津村さんの「さい果て」に対する三島由紀夫の選評もある。
津村さんは吉村さんとの生活を題材にした「玩具」で65年に芥川賞を受賞。吉村さんは同賞に届かず、当時選考委員だった坂井市出身の作家高見順に手紙を送っている。初公開の文面には、吉村さんを推した高見への感謝の思いを記している。
夫婦同業について触れた2人の文章も紹介。「私も家内も十数年前から互いの小説を一切読んだことがない」(吉村さん)、「そういう男が同じ家に居るだけで私は猛烈なプレッシャーを感じさせられる」(津村さん)などと心情を吐露している。
吉村さんが死ぬ間際まで推敲(すいこう)したという絶筆「死顔」の草稿も初公開。その隣には吉村さんの死後、津村さんがペンで加筆、修正した校正稿も添えられている。
会場の一角では吉村さんの書斎を再現し万年筆など実物の愛用品を展示しているほか、本県を舞台に描いた2人の作品も説明している。4月5日まで。