漢字研究の第一人者で福井市出身の文化勲章受章者、白川静さん(1910~2006年)の没後10年記念式典が21日、福井市の県立図書館で開かれ、リニューアルされた「白川文字学の室(へや)」がお披露目された。白川さんが字書3部作を完成させた自宅書斎の再現展示がより忠実になり、来館者は生涯をかけて漢字の成り立ちを解き明かした情熱に思いをはせた。
高さ約2・5メートルの書架に囲まれた自宅書斎の展示は広さを約3倍にした。これまでは書架に蔵書の写真をはめ込んでいた部分があったが、新たに遺族から寄贈されたり、立命館大から借り受けたりしたものを中心に約6千冊の実物を並べた。白川さんが手作りしたブックカバーも再現し、愛用の机や椅子、文房具とともに生前の雰囲気がリアルに感じられる。
展示に見入っていた白川さんの長女津崎史さん=兵庫県伊丹市=は、一つの棚に2重3重に本を並べ、床も埋まって横歩きしかできないほど狭かったことを懐かしげに語った。「多くの人に(白川さんの)歩みを見てもらい、漢字に興味を持って新たな一歩を踏み出す場に育ててほしい」と期待を寄せた。白川文字学を勉強して漢字の奥深さを知ったという六条小6年の岡田彩音さん、岡本夏季さんは「好きな本に囲まれて、(白川さんにとって)幸せな空間だったはず」と話していた。
このほか、白川さんがのこした研究ノート、字書3部作の原稿、恩師らからの手紙など初公開の資料を紹介。中国の古代文字「甲骨文」「金文」の写し書き、古代文字の名刺作りが体験できるコーナーもあり、楽しみながら白川文字学の世界に触れられる。
記念式典には、白川文字学を活用した授業に取り組む県内教員ら約120人が参加した。西川知事は「白川先生は東アジアの漢字文化を復活させるという強い信念を持ち、晩年も先を見据え高い志を持っていた。今後も先生の偉業と白川文字学の魅力を発信する」とあいさつした。大阪大名誉教授の加地伸行さんが「論語と漢字教育」と題して記念講演した。
県立図書館には、「ふるさと福井」をテーマに嶺北特別支援学校の生徒による古代文字の書と県内高校写真部の作品を越前和紙にすき込んで連ねた約3・5メートル四方の大型アートや、県内の児童生徒がはがき、色紙の大きさの紙に書いた好きな漢字1字の作品などが展示されている。
県は11月初めまで福井市内を中心に記念事業を展開する。29日にアオッサで記念フォーラムを開く。