約90年ぶりの発見となった郷倉千靱の3双1組びょうぶ「鳥獣魚」のうちの1双「山雀」

約90年ぶりの発見となった郷倉千靱の3双1組びょうぶ「鳥獣魚」のうちの1双「山雀」

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郷倉千靱 幻のびょうぶ 1930年院展出品「山雀」 小杉の親戚宅で発見

北日本新聞(2018年12月25日)

 射水市出身の日本画家、郷倉千靱(せんじん)(1892~1975年)が1930年の日本美術院再興第17回展覧会(院展)に出品後、行方が分からなかった3双1組のびょうぶのうち1双が、同市内で発見された。同年代の千靱の作品とは作風が異なり、独自の様式を模索する様子が見て取れる。存在のみが語り継がれてきた"幻の一作"の発見に、市内の美術関係者は「まさか古里で見つかるとは」と驚いている。(新湊支局長・芦田周)

 近代日本画壇を代表する千靱は富山県立工芸高校(現高岡工芸高校)から東京美術学校(現東京芸術大)へ進み、院展を中心に活躍。自然への親愛の情や仏教に対する崇敬の念などを、確かな写実性と豊かな色彩で表現した。

 1930年の院展に出品した3双1組びょうぶ「鳥獣魚」は、それぞれ「山(やま)雀(がら)」「野(の)鼠(ねずみ)」「鯉(こい)」という題が付けられていた。本来は「蟲(むし)」を加えた4双1組となる予定だったが、蟲を描く時間がなかったという逸話が残る。出品後に行方が分からなくなり、タイトルだけが後世に残った。

 約90年ぶりに見つかった「山雀」は、射水市小杉地域に住む千靱の親戚が所蔵していた。縦、横各約1・7メートル。無地の背景にワタとトウガラシ、アカトンボが配置され、中心にヤマガラが戯れる様子が描かれている。鋭い筆致の植物は重々しく浮き立ち、ヤマガラの穏やかな姿との対比が特徴的だ。

 この頃の千靱は、日本画の伝統的な手法をベースに、西洋画の写実性などを取り入れた独自の様式を模索していた。20年代後半には仏教画の雰囲気を取り入れた作品を発表。一方、「山雀」は対象を忠実に描いており独自様式は影を潜めている。

 発見した射水市主任学芸員の加治徹さんは「千靱は自身の個性を作品に投影しようと悩み、作風が原点回帰したのだろう」と分析する。76年に刊行された主要作品の図録にも掲載されていない作品の発見については「古里で見つかったことに驚いた。残る2双の発見にも力を入れたい」と話す。

 千靱の親戚からこの作品を寄付された射水市は、市小杉展示館で春と秋にそれぞれ2カ月ずつ展示する方針。早ければ来年4月に初展示となる。

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