「善の研究」で知られる旧宇ノ気町(現在のかほく市)出身の世界的哲学者、西田幾多郎の直筆ノートの精巧なレプリカが完成した。ノートは2015年に孫の自宅から見つかり修復されたが、傷みがひどく展示公開に耐えられなかった。年月を重ねた風合いはそのままに「さわれる文化財」として再現した。3月24日から県西田幾多郎記念哲学館(同市)で初公開する。
レプリカが制作されたのは、京都帝大で教えた西田が授業のために使用した「倫理学講義」「宗教学講義」ノートをはじめ、旧制四高教授などを務めた金沢時代、東大選科生時代のノートなど25冊となる。見つかった50冊は多くが未公開資料で、このうち特に学術的価値の高いノートを複製した。
ノートは水ぬれによるカビや紙の腐敗によりページの固着、破損などがあり、修復を行ったものの、展示公開が難しい状態だった。翻刻作業を進めていた同館には「西田の息遣いを感じるノートを見てみたい」と展示を望む声が多く寄せられており、資料の雰囲気を損なわないレプリカの作成を大阪の工房に依頼することにした。
ノートは紙質や厚みなど限りなく現物に近い素材を使い、経年による古色や紙のけば立ちなども表現している。虫食いや破損部分は無理に再現せずに強度を保ち、にじんだインクの文字はコントラストを高めるなどして、不自然にならない程度に判読性を高めた。
雰囲気のあるマーブル地の読書ノートや、西田の走り書きが残るノートなど、表紙・裏表紙も忠実によみがえらせている。レプリカは3月24日から始まる、西田の生誕150年を記念した企画展で公開する。
中嶋優太専門員は「原資料と見まがうほど精巧に仕上がっている。文字も読みやすくなっており、西田の直筆に触れてもらいたい」と話した。学芸員の井上智恵子さんは「ワークショップなど、実際にノートに触れることができる機会を検討していきたい」とした。