越前市白山地区を訪れ、描いた絵本「コウノトリのコウちゃん」など福井ゆかりの作品も紹介されている=福井県福井市の県ふるさと文学館

越前市白山地区を訪れ、描いた絵本「コウノトリのコウちゃん」など福井ゆかりの作品も紹介されている=福井県福井市の県ふるさと文学館

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加古里子さん絵本原画など155点 福井県ふるさと文学館

福井新聞(2021年8月11日)

 92年の生涯で600冊以上の作品を残した福井県越前市出身の絵本作家、加古里子さん(1926~2018年)。創作の源泉となったのは、未来を担う子どもに自分で見て考え、判断する力を伸ばしてほしいという願い。創作の軌跡をたどる「かこさとしの世界展」が福井市の福井県ふるさと文学館で開かれている。新型コロナウイルスに世界が翻弄(ほんろう)される時代を踏まえて、学芸員は「今の社会をどう見るのか、加古さんの作品に触れて自分の視点を見つけるきっかけにしてほしい」と話す。

 代表作「だるまちゃん」「からすのパンやさん」シリーズや、科学絵本「だむのおじさんたち」「かわ」のほかセツルメント(地域生活支援)時代の紙芝居「どろぼうがっこう」の原画や下絵、複製原画など155点を展示している。

 加古さんの創作の原点となったのは、7歳まで過ごした豊かな自然と風土の古里「武生」。幼少期に五感を使って四季折々の遊びに興じた経験は「だるまちゃんとてんぐちゃん」「ゆきのひ」「地球」など多くの作品に投影されている。

 武生の野山での遊びの記憶と父や母の面影をつづった1975年刊のエッセー「だるまちゃんの思い出遊びの四季」(文藝春秋)の自筆原稿を初公開。2012年に越前市白山地区を訪れたことをきっかけに、人と生物の共生を描いた絵本「コウノトリのコウちゃん」の複製原画も並ぶ。

 加古作品でおなじみの全面にぎっしりと描かれた人や物は、子どもに「発見」する楽しみを感じてもらう仕掛け。人体や地球などの大胆な断面図は、ものの構造や正体を「知る」喜びを与える工夫だ。20代の「わっしょいわっしょいのおどり 水彩画」には絵本につながる画風がうかがえる。やぐらを囲んで踊る人や動物たちはみな楽しそう。絵本編集者の目にとまり、デビューのきっかけとなった。

 科学の面白さを絵本で伝える先駆者でもあった加古さんが最後に手掛けたのが18年の「みずとはなんじゃ?」。水とは何かを幼い子どもたちに語り、日常から地球や未来のことまで伝えようと文章を加古さんが完成させた。体調不良のため絵は絵本作家の鈴木まもるさんに託し、刊行目前に加古さんは亡くなった。鈴木さんの原画と併せて見ることができる加古さんの下絵からは、最晩年まで創作に意欲を燃やした姿が伝わってくる。

 企画展は9月20日まで。8月26、30日、9月6、13日休館。

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