■来年10月開業
砺波平野の散居村に立つ伝統家屋を再生し、郷土の文化や美を体感できる新スタイルの宿泊施設が砺波市に整備される。築120年の古民家を改築した客室に1日3組だけを受け入れ、地元の食材を使った料理のほか、茶道や農業の体験プログラムを提供する。収益の一部を景観保全や文化の保護に役立てる予定で、観光を通じて地域の価値を維持する仕組みづくりを目指す。
県西部の約80の企業・団体でつくる観光地域づくり推進法人(DMO)「県西部観光社 水と匠(たくみ)」が砺波市野村島で計画し、2022年10月のオープンを予定する。砺波地方の自然と人々の信仰心によって育まれた精神風土「土徳(どとく)」を伝えたいとの願いから「楽土庵(らくどあん)」と名付ける。
アズマダチと呼ばれる伝統家屋を活用し、土や竹、和紙といった自然素材を使って改装。三方を水田に囲まれた周辺の景観と調和し、歴史を感じられる空間にする。設計は富山市の建築デザイン事務所「51% 五割一分」が手掛ける。
館内には「土徳」の名付け親とされる思想家、柳宗悦が提唱した民藝運動ゆかりの品々を置く。陶芸家の濱田庄司や河井寛次郎、染色家の芹沢銈介、立山町出身の木工家、安川慶一ら運動を支えた巨匠の作品をしつらえ、宿に居ながらにして美に浸れるようにする。
「茶道・華道のプライベート稽古」「真宗王国の仏教講座」「農家に学ぶ農業体験」といったプログラムを用意し、地域の歴史や伝統文化にも触れてもらう。
敷地内には、宿泊者以外も利用できるレストラン棟を構える。富山の海、山、里の食材を使ったイタリア料理を、地元の工芸作家が制作した器に盛り付けて提供。民藝品や工芸品を取り扱う店舗を併設する。
訪れた人と地域双方の「回復と再生」を理念に掲げ、収益の一部を散居村保全に還元する。水と匠のプロデューサー、林口砂里さんは「散居村に息づく美に触れた旅行者に癒やしを与えるだけでなく、地域の伝統を未来へつなぐための拠点にしたい」と話している。