●石川との交流示す
アイヌ民族が伝統儀礼で祭具として使っていたとみられる輪島塗が25日までに、新潟上越大国際交流センターの浅倉有子特任教授らの研究で見つかった。江戸、明治期の文献には、輪島塗がアイヌ社会で珍重されていたことも記されている。アイヌ民族の宝として、石川の伝統工芸が活用されていたことを示す貴重な資料は、海の道を通じた交流の新たな側面を伝えている。
石川県立歴史博物館で初公開されたアイヌの輪島塗の杯と天目台は、1954年に確認されていた。いずれも上がり藤の蒔絵(まきえ)があしらわれ、杯の内側には鳳凰(ほうおう)の文様が施されている。近年、浅倉氏が石川県輪島漆芸美術館名誉館長の四柳嘉章氏と取り組んだ共同研究で、塗膜の科学分析を実施したところ、下地から珪藻土(けいそうど)が検出され、その特徴から輪島塗と特定された。
浅倉氏によると、アイヌ民族は輪島塗のほか、山中漆器や京漆器、会津塗などを愛用しており、ここ数年で漆器産地の特定が進んでいる。浅倉氏は「この輪島塗はかなり華美な装飾で、アイヌの中でも身分の高い有力者が、自身の権威や富を示すために使っていた可能性が高い」と推測する。
浅倉氏によると、1785、86年に幕府が実施した蝦夷地(えぞち)調査の随行者による記録の写し「北海記」の記述によって、丈夫な輪島塗がアイヌ社会で重用されていたことが研究者の中では知られている。
●秋季特別展で展示、11月13日まで
アイヌの輪島塗の杯と天目台について県立歴史博物館の大井理恵学芸主査は「石川県とアイヌの密接なつながりを知ってほしい」と話した。11月13日まで開催の秋季特別展「アトゥイ―海と奏でるアイヌ文化」(北國新聞社後援)で展示されている。29日にアザラシ猟を体験できるワークショップ、11月3、12日に展示解説が開かれる。