福井県小浜市宮川地区で採掘され、かつて天皇家や大名への贈答用のすずり石として重宝された「鳳足(ほうそく)石」を次世代に伝えようと、住民有志が奮闘している。石の歴史を学び、江戸時代に小浜藩から全国各地の寺社へ寄進されたすずりの追跡調査を実施。現在も貴重な品として保管されていることが分かり「地域の誇りとしてもっと知ってもらいたい」とアピール方法を模索している。
鳳足石は鉄分を多く含む赤紫色の鉱石。江戸初期には良質なすずりの材料として京都、大阪などに知られていたとみられ、1635年に小浜藩が石の勝手な採掘を禁じ、贈答用にしていた。「鳳足」の名は、朝廷の命を受けた徳川光圀が名付けたと考えられ、御名を持つすずり石は鳳足石が唯一とされる。
10年以上前にすずり生産は途絶えたが、地区住民が活用の道を探り、2013年に若狭町の陶芸家の男性が鳳足石を粉状にして釉薬(ゆうやく)に用いた越前焼を製作、18年からは同地区でも陶芸教室が開かれている。
石についての勉強会は昨年、小浜古文書の会の中島嘉文さんらの協力を得て、まちづくり協議会有志が始めた。その中で、酒井家文庫の史料に第2代藩主酒井忠直がすずりを奉納した全国39カ所の大社名刹(めいさつ)の一覧表が残っていることを知り、今年8月下旬に文書を送って追跡調査を実施した。
約半数から回答があり、東大寺(奈良)や日光東照宮(栃木)など県外の寺社で現在も大切に保管されていることが確認された。宝物庫にあるため簡単に見せられない、と回答した寺社もあったという。
同協議会の谷川治一さんは回答のあった寺社からのすずりの写真や石にまつわる年表などをまとめ11月中旬、宮川ふるさと館(旧宮川小)に展示した。「地元でも意外と知られていないので、きっかけになれば」と宮川公民館の館長。今後はさらに発信方法を考えていく予定で、谷川さんは「とても歴史ある石。若い人にも興味を持ってもらい、地域おこしにつなげたい」と話している。