「エレベータ」(1972年、県立美術館蔵)

「エレベータ」(1972年、県立美術館蔵)

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日本画に都市の群像 米谷清和さん21年ぶり古里展

福井新聞(2023年4月5日)

 都市に行き交う人の日常を大胆な構図で切り取る福井県福井市出身の日本画家で多摩美大名誉教授の米谷清和さん。半世紀の画業を一望する県立美術館のテーマ展「今を生きる、時代を描く」が4月5日開幕する。学生時代の初期作から日展での出世作、大都会の群像を描いた大作や近作まで、同美術館のコレクションだけでなく、本人や県内収集家の所蔵作もふんだんに加えた61点。古里では21年ぶりの展覧会となる。

 高志高の美術部時代に県総合美術展に入賞。横山操(1920~73年)と加山又造(1927~2004年)という戦後画壇を革新した2人の大家が教授を務める多摩美大日本画科に進み、大学院を含め6年間、薫陶を受ける。

 大学院修了の翌日に横山が急逝。息を引き取る恩師の左手を米谷さん、右手を加山が握るほど信頼で結ばれた師弟関係だった。

 すぐには芽が出ず、日展は落選続きだった。横山とよく一緒に行ったスナックのカウンターに一人たたずむ姿を描いた「あいつ(Y君)」(70年)は、絵の方向性に悩んでいた大学時代の自画像。米谷さんは「焦点の定まらない、うつろな目に当時の心理状態が見える」と振り返る。

 満員のエレベーターの中に立つデパートガールの手袋の白が強い印象を与える「エレベータ」(72年)。「もう乗れません」と制止される瞬間を描き「上京して味わってきた疎外感」を投影。日展初入選をつかんだ。横山の言葉は「こんな絵を待っていたよ」。方向性が定まった。

 ラッシュの渋谷駅を埋める会社員の背中に哀愁を表現した日展特選作「刻々」(77年)。受話器を握るサラリーマンの後ろ姿から話し相手との関係性を連想させた公衆電話シリーズ。モチーフの表情を描くことなく、都会の人間模様を巧みに浮かび上がらせた。

 視点はやがてミクロからマクロへと変化。巨大な駅から吐き出され、交差点や歩道橋を行き交う群衆を大胆に俯瞰(ふかん)した構図で捉えていく。「黙々と歩く巡礼者に見えた」という一人一人の姿はもはや小さなシルエットになった。

 上京して半世紀余。「東京に住んではいるが(根を張って)暮らしている実感はなかった。入り込んでいないから、肯定も否定もせずに一歩引いて眺められた」。目に映っていたのは、さまざまな人生が行き交う「今」という時代そのものだった。

 画家という人生を選び、福井を離れた米谷さん。「家族や恩師が背中を押してくれた。古里への思いは断ちきれない」。もう一度故郷で展覧会をしたいという思いを「近年かみしめてきた」。思いがかなった会場には、若き日の米谷さんを支えた横山の代表作「川」と加山の「駱駝(らくだ)と人」も並ぶ。

 4月30日まで。15日午後2時から米谷さんと学芸員による対談がある。

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