西洋人が写った白黒写真、錆(さ)びた時計の歯車、ガラス片。脈絡もない古びた複数の素材を木箱に納めたオブジェは、見る人の想像力をかきたてる。福井県福井市出身の美術家、北川健次さんの作品には俳句や川柳で見られる「二物衝撃」の効果にも似た力がある。
福井市松本1丁目のギャラリーサライで開催中の個展「光の劇場―遠ざかるヴェネツィア」に新作29点が並ぶ。
無関係で異質な素材が納まる箱の中に、何らかの意味を見いだそうとしてしまうのが人の性(さが)。「見る人の数だけ箱の中に物語や文脈が生まれる」と北川さん。あえて無関係な単語を組み合わせて読み手を刺激し、新たな世界観を生む俳句や川柳の二物衝撃に近いという。
ベランダの柵越しにこちらを見つめる子どもの写真と錆びた金具を組み合わせた箱オブジェからは「ここから出して」という声が聞こえてきそう。ねじと薬瓶とルーペを裸婦の写真と一緒に納めた箱には、危険な実験室のように美しさと不穏な空気が同居する。
二物衝撃は新たな文脈やインパクトをもたらすだけでなく「ノスタルジア(郷愁)とポエジー(詩情)を喚起する」。子どもが母親に手を引かれて歩くセピア色の連続写真と年季の入ったドアノブ状の金属を組み合わせた作品は、眠っていた幼少期の記憶の扉を開ける。
箱に納める素材同士の「"距離感"が大事」という。意味合いがかけ離れると想像が追いつかず、近過ぎると情趣を損なう。俳人が言葉をチョイスするように部品を配置していく。
もう一つの代名詞である写真製版の銅版画4点も展示。アルチュール・ランボーのポートレートに、ランボーとは無関係の差出人不明の手紙の英文を重ねて刷った作品は、あたかも詩集の一ページのよう。
個展は4月30日まで。