湯涌温泉の冬の風物詩「氷室の仕込み」が28日、玉泉湖畔にある氷室小屋で行われ、貯蔵する雪を詰め込んだ。能登半島地震で湯涌地区に避難した親子も雪詰めを体験したほか、物販コーナーの売り上げは被災地に寄付される予定で、訪れた住民や観光客ら約200人は震災からの復興を願うとともに、6月末の「氷室開き」を心待ちにした。
氷室小屋周辺の積雪は約50センチで、仕込みには十分な量となった。仕込み初めの式典では冒頭、能登半島地震の犠牲者に黙とうがささげられた。お清めの儀が営まれ、湯涌温泉観光協会の安藤有(たもつ)会長や村山卓市長ら7人が雪をかき入れた。
地元産の米を雪と一緒に保存する「氷室米」の仕込みも行われ、湯涌地区で収穫された60キロがステンレス製のケースに入れて小屋の底に保存された。続いて家族連れらが雪詰めを体験した。
輪島市山岸町から避難し、羽場町にある親戚宅に身を寄せる団体職員鈴木勇希(はやき)さん(35)は三男晟維(せい)君(5)と四男湧結(いさむ)君(3)とともに小屋に雪をかき入れた。鈴木さんは「見知らぬ土地に来た子どもに楽しい思いをさせてあげたかった。笑顔が見られたので満足した」と話した。
金沢湯涌夢二館前の広場では募金箱が設置された。物販コーナーでは「ゆわく氷室まんじゅう」や特産の金沢ゆずを使ったせっけん、温かい「源泉ゆずカルピス」などが販売された。
氷室小屋は幅4メートル、奥行き6メートル、深さ2・5メートルで、満杯になるまで今後も雪を詰める。氷室開きで取り出した雪氷は加賀藩の屋敷があった東京の板橋区、目黒区、文京区などに贈られる。氷室米は湯涌地区の旅館や商店で土産品として販売する。安藤会長は「暖冬傾向で心配したが、今年も開催することができてよかった。氷雪を無事に作り上げたい」と話した。
1月の氷室の仕込みと6月の氷室開きは、加賀藩が冬に雪を貯蔵し、夏に江戸まで運んで将軍家に贈った風習を再現している。一時途絶えたが、湯涌温泉観光協会が1986年に復活させた。