〈漁師吉川さん 会社役員山崎さん ウェブエンジニア吉田さん〉
来週に解禁となる羽咋市柴垣沖の天然岩ガキ漁で、新人海士(あま)3人が加わる。地元漁師や移住者、会社役員と顔ぶれはさまざまで「江戸時代から続く伝統を絶やさない」と素潜り漁に臨む。夏の能登の味覚として有名な柴垣の岩ガキだが、担い手不足もあって海士は現在3人しかおらず、漁業関係者は伝統の継承と岩ガキファンのすそ野拡大に向けた新人の活躍に期待する。
柴垣の岩ガキ漁は毎年6月下旬から8月初旬ごろまで行われる。柴垣沖の海底からは真水が湧き出しており、餌が豊富なことから、採れる岩ガキは臭みがなく、濃厚なうまみが特徴だ。
新たに海士となったのは漁師の吉川敬さん(67)、会社役員の山崎紘一さん(56)、ウェブエンジニア吉田圭哉さん(41)。
吉田さんは羽咋市出身で2016年に東京からUターンし、2年前に柴垣町に移って県漁協柴垣支所の手伝いをしてきた。山崎さんは2年前に金沢から柴垣に移住。2人とも「柴垣の岩ガキ漁に関心を持っていた」といい、伝統の火を消すまいと担い手になることを決めた。吉川さんは漁船での一本釣り漁業をしており、さらなるやりがいを求めて一念発起した。
支所によると、柴垣の海士は酸素ボンベを使わず、水深10メートル近くの海底にいる岩ガキを素潜りで採る。戦後に約70人いた海士は高齢化や人口減少で減り続け、3年前から3人になった。昨年の天然岩ガキの水揚げ量は約3トンだった。
漁場の周辺は潮流が速く、漁が難しい。資源管理のため小さな岩ガキは採らない決まりで、素潜り漁には高い技術とノウハウ、体力が必要という。
3人は5月に海士として柴垣支所に登録して以降、先輩の海士の指導を受けながら、体を慣らすため試験的に海に潜るなどしてきた。吉田さんは「まずは徐々に漁に慣れたい。体力的に厳しくても、ずっと憧れていた岩ガキ漁で頑張りたい」と表情を引き締めた。
新人海士3人は、野口勉さん(73)、角尾正敏さん(68)、松岡誠さん(55)に学び、漁に出る。最年長で海士歴15年の野口さんは「甘くはないが、担い手が倍に増えて頼もしい。若い人が柴垣の伝統漁を守ってくれるのはありがたい」と期待を込めた。