「第三セクター運営会社にとって、新車はあまりに大きな買い物では」「ばくちだ」。新型車両「SR1系」の導入には、SNS(会員制交流サイト)上で、あるいは直接しなの鉄道に、不安視する声が届いた。一方で、沿線自治体からは理解の声の方が大きかったという。同社は「綿密な検討と試算を重ね、利益を見込める車両として、自信を持って導入できる」(経営企画課)と胸を張る。
7月に導入したSR1系6両は、普通列車のほか、5年ぶりに復活させた通勤向けの有料快速列車として、平日は長野―上田間を中心に運行。用途を広げ、乗車1回当たりの運賃収入を上げよう―との狙いからだ。
土日祝日に長野・妙高高原―軽井沢間で運行する観光列車「軽井沢リゾート号」もその一つだ。料金は運賃と指定料金500円。テーブル付きの座席で千曲市のパン店が手掛ける軽食を楽しめる「軽食付きプラン」(指定料金込みで2千円)もある。
同社には、2014年に運行を始め、食事付きプランが1万6千円前後の観光列車「ろくもん」がある。二つの観光列車の違いを、営業課は「ろくもんでは列車の旅そのものをゆっくりと楽しんでもらう。軽井沢リゾート号は、沿線観光地へ速く快適に移動してもらうもの」と説明する。
軽井沢リゾート号の運行は、集客力がある軽井沢地域から沿線観光地へと観光客を誘導する戦略と直結する。
軽井沢町を訪れる観光客は841万人余(2019年度、軽井沢町調べ)に上る。一方、その多くは日帰り客で、しなの鉄道の利用も軽井沢―中軽井沢間から先に延びないという課題がある。地元には「軽井沢を訪れた観光客がしなの鉄道で沿線観光地へ足を延ばせば、宿泊者の増加と各市町村の観光客誘致につながる」(中山茂・軽井沢町観光経済課長)との期待がある。
同社や沿線の自治体、観光局などでつくる「しなの鉄道沿線観光協議会」会長の岡田昭雄・千曲市長は「これからは広域観光の時代。沿線には日本遺産、夜景、城、温泉、日本酒やワインと魅力がたくさんある。市町村連携の軸としてSR1系に期待している」と話す。
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念願のSR1系デビューは、新型コロナウイルス感染拡大のただ中となった。感染防止のため、軽井沢リゾート号は指定券販売数を席数の半分ほどに抑えている。十分に効果を発揮できない状況下だが、7月は指定券がほぼ完売。手応えを得ている。
新型コロナの影響による収益圧迫を背景に、同社は「2019〜26年度に新型車両を計52両導入する」とした計画の見直しを進めている。具体策については「あらゆる経費削減を行っているが、新型コロナの終わりが一切見えず、まだ見通しが立てられない」とする。期待を背負いながらも、順風満帆とは言えない状況での船出となった。